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電子カルテ(EHR)のメリット・デメリットを考えてみる

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電子カルテ(EHR)のメリット・デメリットを考えてみる

電子カルテ(EHR)は、デジタル形式の個人の医療記録で、ユーザーに関する情報と治療計画から構成されています。電子カルテ内のデータには、個人情報、保険情報、手術歴、服用薬、検査結果、及び診療医師の所見等が含まれています。

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米国保健福祉省(HHS)国家医療IT調整室(ONC)によると、電子カルテのユーザー数は、2008年から2倍以上増加しています。

米国疾病予防管理センター(CDC)の調査では、開業医の86%が、何らかの電子カルテシステムを使用しており、そのうち約80%が、所定の認証を取得したシステムを使用しています。以下、医療従事者が理解しておくべき、電子カルテのメリットとデメリットをいくつかまとめてみました。

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メリット

・カルテへのアクセス改善

緊急時に、カルテに迅速にアクセスできることは、特に重要です。紙ファイルのカルテを探す時間は、文字通り生と死を分ける可能性すらあります。緊急時であれ、定期健診であれ、カルテ検索の時間短縮は非常に重要です。診療時間や待ち時間の短縮は、多くの医療機関が改善に努めているところです。 電子カルテシステムは、緊急時であれ、定期健診であれ、さまざまなデータへの迅速かつ簡単に探し出せることにあります。

データに簡単にアクセスできるのは、管理部門や医療部門だけではありません。病院や医療施設の多くはオンラインポータルを開設しており、患者は自分の情報に簡単にアクセスできます。正確な情報にアクセスすることで、患者ケアの質的向上だけでなく、患者と医療機関との継続的な関係を改善できます。国立衛生研究所はシームレスな方法でデータを使用することで、患者ケアが向上するとの調べもあります。

 

・医療従事者間のコミュニケーションの増加

電子カルテシステムにより、医療機関ごとに異なるプラットフォームにおいても、様々なデバイスから、各医療従事者が、ユーザーに適した治療を提供するために、電子カルテにアクセスできます。 そのため、電子カルテを使通じて、他の施設で働く医療従事者をも含め、合理的なコミュニケーションができるようになります。呼吸療法士は医師からの指示をタイムリーに確認でき、医師は看護師との進捗状況を簡単に確認できます。電子カルテにより、医療従事者間のコミュニケーションが改善されることで、医療の所要時間短縮にも繋がります。

電子カルテシステムは、医療従事者間のコミュニケーションだけでなく、患者と他の医療施設間のコミュニケーションも改善しています。正確かつ最新の電子カルテは、患者が診療結果をより早く確認することができ、医療従事者から治療計画を情報として得ることができます。患者がポータルサイトへアクセスすることで、いつでも自分の電子カルテにアクセスし、自身の診療情報を正確に知ることもできます。

 

・医療ミスが格段に減る

健康に関する情報をデジタルに管理することは、情報検索がはるかに容易になります。医師、看護師、および患者に関わるすべての医療従事者は、電子カルテを使用することで、最も正確で最新の診療情報にアクセスできます。医師による入力された所見欄は、手書きよりも読みやすいため、結果として医療ミスが減る傾向が確認されています。医療ミスは、経済的負担のみならず、生命の危機にさらすこともあります。 EHRインテリジェンス社によれば、米国で3番目に多い死因は医療ミスによるものです。電子カルテは、死亡原因となる医療ミスを減らすことができ、患者に適した医療を提供するだけでなく、医療ミスに係る訴訟リスクを減らすことにもなります。

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・予防医療の提供

予防医療は、患者の健康と福祉にとって重要です。とりわけ、正確かつ簡単にアクセスできる電子カルテを維持することは、高品質な予防医療を提供する上で重要です。医療機関は、電子カルテを検索し、その場で患者の病歴を確認できるため、医療従事者は、患者にとって最適な医療ニーズを予測できるのです。

電子カルテを使用することで、最も基本的な予防ケアも改善されます。個人が1年に1度健康診断を受けた場合、その検査項目内容、日時など委細な情報が記録されています。自分がいつ診断を受けたのか、その内容がどのようなものだったのかを正確に思い出すのはとても難しいと思います。電子カルテはすべての情報を正確に記録しているので、医療従事者は、その情報をもとに患者に正しいケアができるでしょう。

デメリット

・システム不具合は起こり得る

テクノロジーの進歩により、PCの安全性、信頼性は向上しているものの、依然として誤動作や故障は発生します。また、短時間とは言え、コンピュータシステムがダウンすることで、壊滅的な影響を及ぼす場合があります。データの喪失は、仮に一時的なものであったとしても、患者の治療に影響を与える可能性があります。また、高額な補償金支払いや訴訟につながるリスクもあります。
電子カルテシステムのプログラムやソフトウェアが、データ処理量に対して不十分な処理能力、又は低効率な場合があります。これにより、通信が低速化し、データ取得が困難となり、システム全体がダウンする可能性があります。プログラムやシステムのインターフェイスは、従業員にとって操作しにくい場合もあるでしょう。個人情報等の処理に必要な高品質なプログラムとソフトウェアを装備するには、コストがかかることがほとんどです。

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・セットアップとメンテナンスにかかるコストが膨大

高品質な電子カルテシステムを構築するには、多額の費用と時間を要します。小規模な医療施設では、予算の大部分を占めてしまうでしょう。システム導入の初期費用のみならず、システムの監視や保守等のランニングコストもかかってきます。米国保健福祉省によれば、電子カルテシステムの導入費用は、約15,000~70,000ドルとなっています。

電子カルテシステムを構築する際、コスト面での懸案事項は下記の通りです。
ソフトウェアの開設を、オンサイト、ウェブベースにするか等、いくつかの要因によりソフトウェアのコストは変動すること。

  1. ハードウェアには、すべてのサーバー、コンピュータ、液晶モニタ、プリンター、スキャナー、および各種デバイスが含まれること。
  2. コンサルタント、弁護士、IT業者に関するコストは、電子カルテシステム導入にかかる初期費用に含まれること。
  3. 従業員が電子カルテシステムを理解し、効果的に運用しなければ、どんなにいいシステムを導入しても意味がないため、すべての従業員、及び新規採用者に対し、電子カルテ教育をしっかり行う必要があること。

電子カルテシステムを効率的に稼働させるには、継続的なメンテナンスが必要であり、それには、ソフトウェア、ハードウェア双方の更新、従業員向けトレーニングなど、すべてのハード面、ソフト面すべてにかかる費用が含まれること。

 

・常にアップデートが必要

電子カルテシステムを効率的に運用するには、アップデートが必要不可欠です。新しいソフトウェア、及びセキュリティソフトの更新が必要となります。患者は自分の医療情報に常にアクセスできるため、更新は定期的かつ正確に行われることも重要です。患者が古い情報や誤情報に接した場合、混乱や誤解が生じるリスクがあります。

医療施設に、外部(他社)の電子カルテシステムが既にある場合、外部ソースが定期的に更新されていることを確認しておくことが重要です。これは、医療期間がITスタッフを雇用する前に、確認しておくべきでしょう。電子カルテシステムの更新や変更にあたっては、従業員向けトレーニングを継続的に実施する必要もあります。

 

ハッキングとHIPAA(※)違反の増加

HIPAA:Health Insurance Portability and Accountability Act=米国「医療保険の携行と責任に関する法律」

ハッキングとデータ侵害はますます深刻さを増しており、患者の機密情報が悪用される可能性があります。医療施設は、国内法や州法に関し、高水準で安全が保たれていますが、データの盗用や喪失は、深刻な経済的影響に留まらず、患者に壊滅的な打撃を与える恐れすらあります。又、医療情報を紛失、変更することで、誤診や患者が誤った処方を受けるリスクがあります。

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このようなデータの盗用や紛失リスクを最小限に抑えるために、医療施設が実行できる対策がいくつかあります。

  1. 米国国立標準技術研究所(NIST)は、電子カルテシステムを導入及び運用する業界を含む、さまざまな業界向けのガイドラインと標準を提供しています。
  2. 大型病院であっても、くの医療施設では、電子カルテシステムを保守運用するに足る時間、専門的知見を持っていないため、ITセキュリティを外部専門業者への業務委託を検討したほうがベターでしょう。医療施設での受託実績を持つITセキュリティ受託事業者を見つけることは非常に重要です。

多くの医療機関では、多少なりとも電子カルテシステムのニーズがありますが、患者に最も安全で効果的な医療を提供するには、電子カルテシステムのメリット、デメリット双方を理解し、同時に個別の医療施設のニーズを考慮することも必要です。電子カルテシステムは様々な種類がありますが、大型病院で最も効果的に機能するものは、小規模診療所ではうまく機能しないという場合もあるでしょう。 電子カルテシステムは、一般に長期間運用することでコストメリットがあると言われていますが、初期投資も膨大なことから、導入前に時間をかけてさまざまなタイプを検討する必要があるでしょう。

 

 

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