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2020年の医療技術~トレンドとイノベーション10選~

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2020年の医療技術~トレンドとイノベーション10選~

ここ数年、医療技術は驚異的なペースで進化を続けています。ロボット工学、人工知能、高度なソフトウェア等は、21世紀型医療を加速するための進化の一部にすぎません。そして、昨今の新型コロナウイルス感染拡大は、テクノロジーの進化をより加速させています。医療を可能な限り安全で効果的なものにするために、科学者と医療従事者は、新技術実用化までの時間短縮を図っている状況です。今回は、2020年に知っておくべき、最もエキサイティングな医療のトレンド10選をご紹介します。

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1.チャットボット

Chatbotは、通話、メッセージ、又はその両方で通信​​できるツールです。いずれも、複雑なアルゴリズムと高度なコンピューターソフトウェアにより、リアルな人との会話のように感じます。もしかしたら、すでにチャットボットとやり取りしたことがあるのに、それに気付いていないこともあるかもしれません。ほぼすべての人がスマートフォンを持っているため、チャットボットは医療専門家でなくとも、患者と簡単にコミュニケーションを取ることができます。患者は、チャットボットを使用して、指先ひとつでヘルスケア関連の情報とアドバイスを受け取ることができるようになります。 メディカル・フユ―チャリスト社は、患者と医療従事者の双方を支援できる、12種類のチャットボットを挙げています。以下は、チャットボットのほんの一部です。

・パーソナルナースチャットボット
このチャットボットは、患者が薬を服用するタイミングや、健康的な食事を提案してくれます。これらのチャットボットは、日常ケアにおいて、より一層患者をサポートできますし、医療施設では、このテクノロジーと医療スタッフとが協働することで、コストを低減し、業務効率を上げることができます。

・癌アシスタントチャットボット
癌と闘う患者のため専用のチャットボットです。このチャットボットは、実際には癌患者が、食事療法や運動のアドバイスを受け、実践するのに非常に有効です。チャットボットによっては、必要に応じて患者と医療専門家を連携することもできます。

・薬物チャットボット
薬物相互作用や患者が服用する薬物に関する情報を提供するチャットボットです。これは、処方箋に関する質問に迅速に答えてくれます。病院や医療機関は、これらのチャットボットを使用して、患者が病院から在宅治療に安全に移行できるように支援することができます。

・メディカルアシスタント
より高度なチャットボットの中には、医療アシスタントとして機能するものもあります。これらは、テキスト・ビデオ・画像を通して、患者個々の症状を診断することもできます。また、施設内で患者を直接支援したり、患者が在宅治療に移行した後にテキストメッセージやビデオを通じてサポートしたりできます。これらのチャットボットは、患者にアドバイスしたり、症状に応じた医療関係者に連携することもできます。

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2.ウェアラブル医療機器の増加

ウェアラブルデバイスとは、人間の体に装着する様々な電子機器のことで、これらのデバイスをアクセサリーとして衣服につけたり、直接体に装着したりします。歴史上初期のウェアラブルデバイスと言えば、おそらく眼鏡でしょう。今日のウェアラブルデバイスは、インターネットと通してデータを転送するCPUにより構成されており、現在、何十種類ものウェアラブル医療機器が開発・使用されています。以下、いくつか事例をご紹介します。

・スマートタトゥー
現在、筋肉機能、脳活動、睡眠障害をモニターできるタトゥーが実用化されています。スマートタトゥーはレーザーでカットされ、衣服や皮膚に数ヶ月間貼り付けて使用します。

・乳がんパッチ
乳がんパッチは、乳がんの初期症状を検出し、検査のためにデータを医療機関に転送することができます。

・環境モニタリング
呼吸器疾患に悩む人を支援するために、大気汚染度や空気の質をモニタリングできるウェアラブルデバイスです。

・心電図モニタリング
ニュー・ワイズ社開発のウェアラブルデバイスは、心電図を継続的にモニタリングすることができ、妊娠中の合併症からてんかんに至るまで、あらゆる症状の初期発見に貢献します。

ウェアラブルデバイスが、より驚異的な進化を遂げた分野と言えば、メンタルヘルス分野でしょう。HIMSS(Healthcare Information and Management Systems Society=米国における、情報技術をもって医療全般の改善に取り組む非営利団体)によれば、ウェアラブルデバイスによって、ストレス要因を検出し、監視することができるモデルがあるとのことです。体温、血圧、皮膚のコンディションから、感情の起伏を評価することができ、医療従事者は、患者と迅速にコンタクトを取り支援することができるようになります。

 

3.患者と医療機関とのクラウド連携


医療機関と患者とのクラウド連携は必須課題です。医療技術は、患者と医療従事者が、さまざまなデバイスにより、いつでも・どこでも連携することができることを目指しています。情報データのクラウド連携は、この目標を達成するための重要ファクターであり、連携することで患者はより多くのアドバイスを受けることができます。また、クラウド連携を通して、医師やかかりつけ以外の医療機関と繋がることもできます。

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クラウド連携は、医療機関と患者のためだけのものではなく、医療機関同士がより効果的に連携し、業務遂行するためのものです。現在、連携強化を目的とした拡張性、柔軟性、セキュリティーを向上させることができるクラウドベースのプラットフォームが登場しています。放射線科、検査室、外科、薬局等、さまざまな医療サービスを簡単に連携させることができるプラットフォームもあり、医療機関のクラウド連携は、管理が容易で効率的な医療への統合的なアプローチを目指しています。

クラウド連携のプラットフォームには、さまざまなものがあります。カスタマイズ可能で柔軟性の高いプラットフォームなら、Podio がおススメで、多くの企業に導入されています。もっとライトな管理プラットフォームなら、Slackもオススメです。現在マイクロソフト社は、世界で最も優れたセキュリティー管理のクラウドを管理しており、このプラットフォームでは、医療機関が患者個人向けの包括的医療計画を提供したり、HIPAAに準拠したアプリケーションで、患者が請求書の支払いや診察スケジュールを立てることもできます。

 

4.遠隔医療の広範な使用


簡単に言えば、遠隔医療とは、医療や健康関連のサービスをリモートで提供することです。これには、リアルタイムでの双方向のコミュニケーションが含まれます。遠隔医療には、原義では”telehealth”と”telemedicine”とに区別されている点がポイントです。AAFP誌(American Academy of Family Physicians=米国における医療専門ジャーナル)によると、”telehealth”が具体的に臨床サービスであるのに対し、”telemedicine”は広範囲のヘルスケアサービスを含むものと定義しています。どのタイプのサービスを検討するにせよ、この遠隔医療技術が医療サービスを向上させる余地は、大いにあります。

 

昨今の新型コロナウイルスが、予想以上に速いスピードで遠隔医療を推し進めた要因であり、デジタル診断や治療が可能となったため、新型コロナウイルスの感染拡大抑制につながったと考えられます。現在、遠隔医療が患者負担のコストを削減し、より医療機関へかかりやすくなったため、結果として健康管理に繋がっている事例が複数あります。

 

・スキャンデータと画像による診察

遠隔医療により、医療従事者は患者を直接診察するのではなく、安全なサーバーを経由して送信された患者のスキャンデータや画像を表示できるため、患者との直接のコミュニケーションが密に行われ、さらには、往来時間を削減できます。

・適切な薬服用の促進

患者が確実に正しく薬を服用することは、健康管理の基本です。患者に処方箋をよく読むようリモートで何度も促すことができます。

・在宅モニタリングサービスの提供

遠隔医療とウェアラブル技術の連携により、より多くの患者が在宅治療できるようになりました。例えば、家庭用監視装置を使用して、血圧、体重等を測定、医療スタッフに転送することで在宅治療が可能になった心臓疾患患者等です。

・遠隔地への医療サービスの提供

ウェストバージニア州の農村地域であろうと、はたまたバングラディッシュの村であろうと、医療サービスが行き届かない遠隔地に世界中で数百万人という人たちが暮らしています。遠隔医療は、これら地域の患者が受けることができなかった、高度な医療サービスが提供可能になります。

・分散型医療のサポート

近年の医療のトレンドとして、分散型医療の増加があります。多くの医師、看護師、その他の医療従事者は、大型病院だけではなく、専門病院や医院を運営しています。さまざまな場所で多くのサービスが提供されているため、効果的な遠隔医療の機会が増えることでしょう。

 

5.データ主導のヘルスケアの台頭

データが金融から教育まであらゆる分野を牽引しているように、データは医療業界でも存在感を増しています。データ型医療の大きなポイントは、患者個々に応じた医療を提供でき、正確なデータを最大限に活用することで、個々の患者に合わせた医療的アプローチが可能になります。どのような医療機関でも、データを取得、整理、管理、保護、そして利用する際には、最先端技術の導入が求められます。以下、これらの各ステップがどのように実行されるべきかを詳しく解説します。

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・データの取得
データを最大限に活用するための最初のステップは、データの収集です。プログラムにより、電子カルテや保険情報等のデータを、外部から取り込みます。高精度なソフトウェアにより、大量のデータを時短で容易に取得できる技術がそろっています。

・データの整理
高精度のプログラムにより、さまざまなデータの高度な分類、整理が可能になりました。高精度なプログラムは日々進化しており、数年前まで対処できなかった、ビッグデータを処理する機能も実装備されています。

・データの管理
病院や医療施設によっては、データをオンサイトで管理していますが、現在、多くの医療施設では、専門業者に委託して、データをクラウド上で管理しています。データ管理に特化した企業により、最新技術を駆使して、24時間管理の完全なセキュリティーを備えたデータセンターが利用できます。

・データの保護
機密データをハッキングやランサムウェアから保護することが重要です。最新技術により、危険なハッキングやウイルスに対応し、データを防御しています。

・データの活用
データは、取得、整理、管理、保護して初めて有用性を発揮するものです。医療従事者は、これら各手順を経て、データを用いた医療結果の予測、薬の処方、手術の検討、治療効果のモニタリング等を行うことができます。

仮に、医療機関がデータ取得、分析、管理、保護、利用を最も効果的かつ効率的な方法で行うことができたとしても、確度の低いデータを使用していては、何のメリットもありません。データが正確、かつ最新の状態であることは、医療施設を問わず、まずやるべきことと言えるでしょう。

6.病気を予測する人工知能(AI)

人工知能(AI)とは、開発や設計を通じて、人間の知能と限りなく近い行動や判断を可能にした機械やソフトウェアのことです。人工知能は現在、セキュリティ、監視、製造、農業、医療等の産業の一翼を担っています。医療領域での応用が最も期待されている分野は疾患分析や、発症時期の予測等です。

AIを利用する最大のメリットは、膨大な量のデータを比較的短時間で処理できることです。ソフトウェアが大量のデータの中から複雑なパターンを見つけ出すことでで、種々の病気や健康状態の予測モデルを導くことが可能になります。

ハーバード・ビジネス・レビュー誌によると、AIは病気の予測に役立つだけでなく、特定の病気の原因を突き止めることもできるということです。研究者が特定の病気の原因を発見すれば、それに対抗するための新薬をより迅速に、そして効率的に開発できるようになります。また、人工知能アルゴリズムは異なるタイプのデータがどのような相関関係にあるかを分析することもでき、病気の誘発原因の発見に繋がる可能性もあります。

 

7.AR治療ソリューション

様々な病状に悩む患者が、治療プログラムの一環として、AR(Augmented Reality=拡張現実)を利用できるようになりました。まずは、ARとVR(Virtual reality=仮想現実)の違いを理解することが重要になってきます。VRは、現実とは異なる別次元の世界に、完全に入り込むことです。VRは、人間がおかれた現実世界を完全にシャットアウトし、コンピュータ技術によって、別世界を提供します。ARは、人間の現実世界に、視覚的なデジタル要素を加えるものです。ARを利用して、画像などのデジタル要素が現実世界に融合します。医療技術は、様々な疾患の治療に、ARとVRの両方を活用しています。

・脳卒中
脳卒中の患者は、症状の治療に多様なARを利用できるようになりました。米国バイオテクノロジー情報センターによると、脳卒中を患った患者が上肢のARリハビリを利用することで、格段に効果的であることが実証されています。

・幻肢症候群
映像療法は、幻肢症候群の最も一般的な治療法の1つで、現在、科学者や医師はARを活用しています。患者はゴーグルや手袋を着用し、残存肢に電極を設置し、ARによって患者に三次元の拡張現実を作り出すことができるため、患者は両手を使った活動を行うことができるのです。又、感覚と視覚にフィードバックを与えることで、実際に感じる痛みを軽減することができます。

・メンタルヘルス
精神衛生療法は、ARとVRを取り入れた先進的な分野です。患者は、安全性が担保された医療施設で様々な疑似体験ができ、パニックや不安、その他精神疾患に対処するための学習に役立ちます。

・緊急アプリ
緊急事態が発生したとき、通常は911に電話するために携帯電話を手に取るでしょう。いまでは、スマートフォンと連動するARは、そのアプリをダウンロードして、近くのAEDを迅速に探すことも可能です。

 

8.スマートホスピタル

スマートデバイスは、すっかり私たちの生活に無くてはならないものとなっています。ヘルスケア・ITニュース誌によると、スマートホスピタルは、デジタルネットワークを通じて、病院の管理システムや、臨床プロセスを再構築し、最適化を図るシステムを指しています。デジタルとテクノロジーの融合により、スマートホスピタルは患者ケアを改善し、より効率的な病院運営ができるようになります。単にペーパーレス化ということが、スマート病院ということではありません。ここでは、普通の病院を「スマートホスピタル」へと変革する要素をいくつかご紹介します。

・コミュニケーションを最適化する機能
これには、医療機関が様々なプラットフォームやデバイスを用いて簡単にコミュニケーションを取れるようにするためのモバイル技術の活用などが挙げられます。また、患者自身の健康データや、医療従事者と簡単かつ効果的にコミュニケーションを取れるようになります。

・患者のエンゲージメント(治療への関与)を高める
これには、病室に設置されたタッチスクリーンモニター等が挙げられます。システムによって、患者は自身の健康データと治療のスケジュールを確認できます。

・データの管理
スマートホスピタルには、データ分析に活用できるソフトウェアが標準化されています。これには、患者の個人情報データや、病院の財務データまで、あらゆるデータが含まれています。患者の生体認証データを追跡するウェアラブル端末等も挙げられるでしょう。

・モニタリング対象
スマートホスピタルでは、単月のペニシリン使用量や、ペーパータオル、その他消耗品類の使用量等、あらゆるものをモニタリングするシステムが標準化されています。

重要なことは、スマートホスピタルシステムはそれぞれ特徴が異なり、必要とされる技術やシステムは、病院ごとに異なるということです。

 

9.ロボット手術の増加

ロボットによる施術は新しい技術ではないものの、近時、急速に発展しています。医療従事者が、新型コロナウイルス感染拡大の状況下、安全かつ効果的に手術を施すことは大変に難しいからです。 UCLA Health(米国ロサンゼルス、学術医療センター)によると、ロボットによる施術には、複数のメリットが認められています。

・ロボット手術の低侵襲性
これは、施術に伴う出血量が少なく、感染症リスクの低減や、瘢痕が小さいことということです。

・痛みを軽減
数千人もの患者が鎮痛剤中毒に苦しむと言われる中、ロボット手術による痛み低減は、一層重要な課題となります。

・術後回復の速さ
術後回復が早まることで、病床数やリハビリにかかる時間を短縮できますし、病院と患者双方にかかる医療費の節減にも貢献します。

・多くの条件に対応
すでに外科手術では、肝臓、肺、腎臓、心臓、子宮、前立腺、膀胱等の臓器手術に、ロボットを活用しています。

 

10.3Dプリンタは発展し続ける

3Dプリンタは、医療分野において驚くほど発展しています。科学者は、デジタルデータを使用して、3次元のオブジェクトを作製できます。3Dプリンタは、連続するファイルを多層に重ねていき、最終的に3Dオブジェクトを形成します。 Med Tech Dive(米国ワシントンン発、医療技術のオンラインメディア)によれば、この最先端技術は、整形外科、外科、さらには歯科の進歩にも貢献しているということです。ただ、技術が急速に発展している反面、実際の施術で使用する際、手術に使用する材料に関する、FDA(Food and Drug Administration=米国食品医薬品局)規制があり、承認を得るのに時間がかかる、または、承認が得られないなどの問題が挙げられます。

3Dプリンター、造薬、医療技術

3Dプリンタの購入には、約5,000~50,000ドル程度のコストがかかります。これは、大型医療機関にとっては妥当な金額と思われるかも知れませんが、本体購入以外にも別途コストがかかり、例えば金属部材のプリントはかなり高額です。3Dプリンタ本体にかかる費用や、必要とされる専門知識やメンテナンスを考慮すると、医療施設などは、外部委託した方が良いでしょう。医療分野では、現在3Dプリントを採用している分野がいくつかありますのでここで紹介しておきます。

・義肢装具の改良
高品質な義肢装具は、患者個々に合わせて作られたものです。3Dプリントを使用することで、義肢装具は、患者個々の身体的特徴にジャストフィットさせることができます。

・ロボティクスとの融合
3Dプリントでは、液晶を原料とするエラストマー(ゴム様の物)も作製することができ、特殊インクを使用することで、外科手術に用いられる可変性素材等をプリントすることが可能になります。

・バイオプリント
細胞成分を組み込むことで、構造の異なる組織体をバイオプリントすることができます。この3Dプリントは、細胞がどのように分化するのか、どのように異なる組織体に成長するのか解析することができます。また、火傷を負った患者を治療するための皮膚細胞を、バイオプリントすることも可能です。

・身体の再生
身体の再生とは、身体の組織体や皮膚に限ったことではありません。3Dプリントにより新しい脚や、顎の骨に至るまで置き換えることが可能になりました。

これらの驚異的な医療技術の進歩は、医療従事者や患者にとって、確かな未来を創造するものです。もしあなたが、医療分野のビジネスに関わるとき、これら技術の進歩がどのような構造改革をもたらすのか、常にアンテナを張ってみていく必要があります。

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