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高度なAI技術が重度な運動機能障害の治療に役立つ可能性

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高度なAI技術が重度な運動機能障害の治療に役立つ可能性

運動機能障害とは、おもに歩行やバランス感覚などに影響が生じ、パーキンソン病や脳性麻痺といった神経疾患や、脳卒中や脳外傷時に多く見受けられます。治療として、患者の歩行や歩行パターンが標準とどのように異なり、どこに障害が生じているのかなどを正確に把握することが大切であり、診断と治療には「歩行分析」が必要になります。

しかし、正確な歩行分析を行うには、専門家による対応が必要となり、時間や費用がかかってしまう点が問題になっています。

 

運動機能障害の診断へ新しいアプローチ

現在、歩行分析による運動機能障害の診断には、映画やテレビなどでCGIシーンを設定するために使用されている、「モーションキャプチャ」と呼ばれる技術が最適な方法と言われています。しかし、そのモーションキャプチャ技術を利用するには、多くの神経外科医や整形外科医、専門的な知識や技術を必要とするため、重度の運動機能障害のある患者や普段の診療時に利用するにはハードルが高い状況になっています。

そこで、スタンフォード大学とミネソタ州のGillette Children’s Specialty Hospitalによって行われた最近の共同研究により、ビデオ補助歩行分析(VOGA)に対する新しいモーションキャプチャ技術が開発され、洗練された正確な歩行分析技術があらゆる医療専門家へと、提供されることが期待されています。

研究チームは、脳性麻痺の患者を対象に、1台のカメラによるモーションキャプチャ技術と、「OpenPose」と呼ばれる高度な人工知能プラットフォームのデータ処理能力を組み合わせることにより、通常モーションキャプチャ技術で必要とされる時間を1/4に短縮でき、自宅で撮影した動画をアップロードすれば分析が行えるといった、歩行分析ツールの開発に成功したのです。

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運動機能障害を引き起こす原因

運動機能障害(運動機能不全とも呼ばれる)は、四肢(手足)や体の正常な動作に影響を及ぼす行動障害といわれる障害群の一部になります。体のあらゆる動作には、中枢神経系(脳と脊髄)と神経、筋肉や骨、関節などの複雑な相互作用が関わっており、このいずれかに損傷や機能不全が起こっても、運動機能障害の原因になります。腕の上げ下げ、頭を回す、座るなど、あらゆる動作が困難になり、大半は歩行やバランス感覚の障害を伴うのです。

神経疾患の多くは運動機能障害を引き起こす可能性があり、パーキンソン病や多発性硬化症では脊髄と四肢に信号を送る神経に、またアルツハイマー病などの認知症は神経結合に影響を与えることがわかっています。

脳が損傷を受けると運動機能障害が生じる場合もあり、脳卒中、脳腫瘍、脳の損傷や感染症などは、運動やバランス感覚を制御する部分に影響を及ぼすことがあります。脳性麻痺は、乳児の発達時の損傷によって引き起こされる複雑な障害で、起立、歩行、バランス感覚など、多くの深刻な問題機能障害の原因となっています。

これら運動機能障害の治療は、様々な原因によって異なります。パーキンソン病などの疾患による運動機能障害は薬物療法で管理できることや、理学療法やリハビリテーションなどが運動機能の改善に役立つ場合もあり、治療には正確な診断が必要とされ、歩行分析も重要な一つと考えられています。

 

歩行分析による機能障害の診断

運動機能障害の診断と治療計画は、歩行において障害となっている点を明確にし、問題となる点を正確に把握することから始まります。ビデオ補助歩行分析(VOGA)では、神経科医や専門家がビデオキャプチャを使用し、一般的な歩行速度、歩行率(1分間の歩数)、左右対称性の三次元で測定された動きを確認することができます。

これらの三次元データを確認するには、複雑なカメラの設定、動きの僅差を確認するための大規模なビデオデータへのアクセスなどが必要となり、こういった処理には知識をもった専門家チームが手作業で行なう必要がありました。そういった専門家を要することが、小規模な診療所や、独立した専門家が、ビデオ補助歩行分析(VOGA)を使用できない要因でもあります。

 

現状の課題

  • 家庭にあるような一般的なカメラで撮影されたデータ(二次元)での分析を可能にする
    →時間と費用の節約ができる
  • 大規模なデータと比較し、迅速に分析ができるソフトウェアの開発を行う
    →時間の短縮、専門家による作業が不要になる

 

今回のスタンフォード大学とGillette Children’s Specialty Hospitalの共同研究では、上記のような課題を解決し、運動機能障害に携わる世界中の医療従事者が、迅速かつ容易に診断ができるようになることを目的として行われました。

研究チームは、AIを使ったプラットフォーム「OpenPose」を使用し、動いている人の画像を150万枚以上集めたデータベースを利用し、たった1台のカメラで脳性麻痺患者の1700本のビデオから障害の要点を発見することができました。

Nature誌によれば、これは運動機能障害の詳細な診断を、迅速かつ経済的に行えるようにすることで、「神経・骨格系疾患の研究が大衆化する」としています。

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人工知能(AI)による診断

人工知能(AI)とは、コンピュータサイエンスをもとに人間のように知的な行動を人工的に再現できる技術のことをいいます。機械学習と呼ばれるアルゴリズムを用いて人間が指示を出さなくても結論、予測、判断を下せるよう学習していきます。

主に、クラウドに保存されている医療情報の大規模なデータベースから、該当するパターンを発見し、問題点を特定するなど、医療において不可欠なものになりつつあります。また、人間が見つけられない複雑なパターンを検出することができるため、見落としによるトラブルを防ぐこともできます。

AI技術は、高度な機械学習のディープニューラルネットワークを使用することで、「正常な歩行」がどのようなものか学習し、膨大なデータベースにある幅広いバリエーションの歩行パターンデータから、ビデオでキャプチャされたデータとの偏差を測定することができます。

こういった技術は、スタンフォード大学とGillette Children’s Specialty Hospitalの研究が土台となり、「OpenPose」や同様のテクノロジーを用いて、ビデオ画像をアップロードし、そのデータを保存された何千ものファイルと比較し、患者の歩行の速度とリズムの障害を特定することが可能となりました。

研究チームが、一般的なカメラで撮影されたデータでの利用を可能にしたことにより、ビデオ補助歩行分析(VOGA)技術が特殊な条件下ではなく、大衆が利用できる身近なものへと発展した大きな一歩といえます。これまでのような専用の3Dカメラでの撮影がいらず、患者やその家族が自宅で撮影したデータを専用ウェブサイトにアップロードすれば、診療所へ行くことも必要なくなるからです。

このシステムは、AIソフトウェアを使用してどの診療所のPCにも実装することができ、患者や家族からアップロードされた動画データをプログラムで実行するだけで、膝の屈曲や歩行速度、設定した詳細な情報が表示され、検出する項目もカスタマイズでき、結果は数分で反映されます。特殊な知識や研修などは必要ないため、どの医療従事者でも迅速な診断や治療計画に役立てることが可能となります。

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運動機能障害を治療するためのAIの未来

今回のスタンフォード大学とGillette Children’s Specialty Hospitalの研究は、運動機能障害のより迅速で正確な診断につながる道を開き、様々な医療専門家が自由に使える技術を提供することができました。しかし研究チームは、まだ問題点があり今後改善していかなければならないとしています。

現時点において、一般的なカメラで横から撮影されたデータでは、三次元で撮影した完全なデータより劣るため、今回の研究で使用したAIプラットフォームでは、学習したパターンから大きく逸脱したデータでは読み取ることができず、患者の衣服や動作の種類を考慮したデータベースと照合しなければなりませんでした。参加した研究者は、次世代の「OpenPose」や歩行分析技術では、一般的なカメラで撮影したデータから三次元データを抽出し、さらに大きなデータベース上での操作を実行することで、より高度で正確な検出ができる可能性があると考えています。

スタンフォード大学とGillette Children’s Specialty Hospitalの共同研究や、その他同様の研究から、人工知能、機械学習、クラウドのツールの利用が、今日の患者ケアや治療方法を変えつつあることは明らかになっています。重度な運動機能障害の診断と治療のために、より迅速で正確な技術が提供されるようになったことで、医療分野だけでなく様々な専門家も提示する治療法の選択肢が増え、障害をもった患者がより安心して診療を受けられるようになるのではないでしょうか。

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