メディカル・テック

メッセンジャーRNA技術の未来

SHARE.

メッセンジャーRNA技術の未来

メッセンジャーRNA(mRNA)技術は癌や感染症など様々な病気に対する予防や治療に革命をもたらすことが確実視されており、世界中の投資家もそのポテンシャルを認識しています。mRNA技術をはじめとする合成生物学は、人間の身体などの有機的なシステムに対して工学的にアプローチする研究分野であり、今莫大な資金がつぎ込まれています。

mRNAとは?

mRNAは数十億年前に進化した分子のひとつで、私たちの体のすべての細胞にあるものです。mRNAそのものは新しいや発明や発見ではありません。科学者たちはRNAが発達したのはDNAが存在するよりも前で、非常に原始的な生命であると考えています。

mRNAはメッセンジャーRNAの略です。簡単に言えば、mRNAの働きはその名の通り細胞内のメッセンジャーとして機能することです。mRNAは情報の伝令役として細胞内の安全を守る重要​なメカニズムの一部となり、細胞を乗っ取ろうとする侵入者から保護します。役割を終えたRNAは細胞外のリボヌクレアーゼと呼ばれる酵素によって即座に破壊されます。

合成生物学と「プログラム可能」な医学

mRNA技術が非常に革新的である理由の1つは、有機体を「プログラム可能」なものとする合成生物学に基づいていることです。これはmRNA技術によってコンピュータでプログラミングをするように薬を作成できること、そしてその薬は現在のものよりもはるかに速く何度でも変更を加えられることを意味します。新薬の開発と既存のワクチンのウイルス変異への対応の両方がこの特性によって可能になります。

メッセンジャーRNA技術の未来 画像1

mRNAと新型コロナウイルスワクチン

1796年、英国の医師エドワード・ジェンナーが世界初のワクチンである天然痘ワクチンを開発しました。その方法は、生物学的に天然痘に近い牛痘ウイルスに感染した女性の水疱から採取した液体を患者に注射することでした。過去200年間、この方法はほとんどすべてのワクチン開発の基礎となっています。感染症予防は、人々に対象となるウイルスと近い型のものを与え、抗体を活性化することによって達成されてきました。

しかし2020年の今日、新型コロナウイルスのワクチンとして8000万人以上のアメリカ人がmRNA技術に基づく新しいワクチンを接種しています。

ハーバード大学医学部ウイルス学およびワクチン研究センターの所長であるダン・バルーチ医学博士は「新型コロナウイルスのおかげでワクチン分野は今後永続的に変化し、進歩しつづけます」とアメリカ医科大学協会の記事で述べています。

mRNA技術の未来

この技術はこれまで知名度が少なかったため、パンデミックにより性急に使われたのではないかと安全性について心配する人もいますが、世界中の研究者は過去25年にわたってmRNA技術の活用を模索してきました。

mRNA技術によるワクチン開発の成功は、この分野において200年前の天然痘ワクチン以来の最も飛躍的な進歩になると科学者たちは予測しています。

ヒューストンメソジスト研究所RNA治療プログラムのメディカルディレクターであるジョンクック医学博士は「これはほんの始まりに過ぎません」と述べています。

これがほんの始まりに過ぎないのであれば、次に来るのは?

合成生物学に関心のある起業家、エンジニア、投資家のためのネットワークであるシンバイオベータの創設者であるジョン・カムバーズは、新型コロナウイルスワクチンの成功が、医学におけるまったく新しい時代の始まりを示すと信じています。

彼はアメリカの経済メディアであるマーケットプレイスのインタビューで「私たちは革命の最前線にいます。次の100年が生物学の世紀であると一部の人は予測していますが、今まさにその発端を迎えているのです」と述べています。

スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツのような偉人達は、コンピュータ技術と生物学の発展が交差する時に起こる革新をかなり早い段階で予測していました。そして現在、生物をプログラム可能なものとする合成生物学は、世界に変革をもたらずものとして私たちにもはっきりと認識できるようになりました。

現在多くの研究者は、単なる感染症予防をはるかに超えたmRNA技術の可能性を追求しています。この技術は例えば、癌、鎌状赤血球症、そしてHIVの安価な遺伝子治療を可能にします。他にもヘルペス、乳児呼吸器ウイルス、マラリアなどのウイルスの予防と治療などへの適用も考えられています。

また何千もの変異ウイルスに対する免疫を提供する「ユニバーサル」インフルエンザワクチンや「汎用コロナ」ワクチンの開発プロジェクトもすでに計画されています。その完成も時間の問題であるとほとんどの研究者は認識しており、こうしたプロジェクトによって開発されたワクチンは次のパンデミックが発生したときの備えとなるでしょう。

mRNA研究によってモデルナ社の新型コロナウイルスワクチンの開発に成功した研究者の1人ドリュー・ワイズマンは、MITテクノロジーレビューの中で「新型コロナウイルスワクチンそのものよりももっと多くの恩恵があると想定しています。これからは1年間世界をロックダウンする前段階で新たなワクチンを準備することができるでしょう」と述べています。

まとめ

mRNA技術による新型コロナウイルスワクチンの開発の成功は、前例のない可能性への扉を開きました。実際のウイルスを弱毒化してワクチンを作成するのではなく、コントロールされた合成環境の中でワクチンを開発することは、医学史における重要なマイルストーンです。

この新しい技術により、さまざまに変化する需要に対し迅速に変更および適応できる「プログラム可能」なワクチンを開発することが可能になりました。多くの研究者はこれがまったく新しい時代、「合成生物学の時代」の始まりであると考えています。

さらに多くの投資家がその可能性を把握し始めるにつれて、数十億ドルがこの分野に流れ込んでいます。 mRNA技術には多くの潜在的な可能性があり、マラリア、癌、HIVなどの病気の治療法やワクチンに新たな希望をもたらしています。 新型コロナウイルスのパンデミックによって世界中の科学者が参加することを余儀なくされた戦いは、mRNA技術によるワクチン開発という結果をもたらしました。今日私たちは、パンデミック以前の2019年よりも多くの医学的進歩を目前にしています。

SHARE.

前の記事

5Gスマートシティ: インフラと計画における5Gテクノロジーの影響

次の記事

医薬品における量子コンピューティング

関連記事