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AIが発見する新たな抗生物質

薬剤耐性菌の増加により、2050年までに1,000万人が死亡する可能性があると予測されています。人類の脅威となる薬剤耐性菌や薬剤耐性ウイルスと戦うための新たな突破口が見つからない限り、その予測は現実のものとなるでしょう。

薬剤耐性菌に効果のある抗生物質を発見する新しい手法として注目されているのがAIを使う方法です。AI技術の進歩により、これまでになかった方法で世界的な大発見をする道が拓けました。これは最先端のAI技術をビジネスに活かそうとしている企業にも利益をもたらしています。

マサチューセッツ工科大学の研究者グループは、機械学習AIを活用して薬剤耐性菌に高い効果のある新たな抗生物質ハリシンを発見。シプロフロキサシンをはじめとした従来の抗生物質に耐性のある細菌も、ハリシンに対する耐性に耐えることはできませんでした。

この発見でAIは様々な薬剤の分子データをニューラルネットワークによって解析して、高い効果があると期待されるものを抽出しました。技術の進化により手間は大幅に軽減され、開発の時間も数週間ほどに短縮されました。

これまでは、新たな抗生物質を発見するのは険しく時間がかかる道のりでした。かつてはコンピューター予測やAIは新薬の開発に用いるのに十分な精度がありませんでしたが、数十年に及ぶAI技術の発展の結果、目覚ましい実績をあげることができるようになっています。

細菌やウイルスが薬剤への耐性を獲得し続ける限り、それに効果のある抗生物質への需要が失われることはありません。このAI技術は製薬業界だけでなく、ビジネス全般に変革をもたらすかもしれません。

 

ハリシンの発見

マサチューセッツ工科大学とハーバード大学の共同研究施設ブロード研究所には様々な薬剤の情報を収集しているドラッグリポジショニング・ハブというデータベースがあります。これを使用して新たな抗生物質を探す場合、いままでは登録された6,000を超える分子をふるい分けることから始める必要があり、その中から特定の効果のある抗生物質を見つけることは非常に困難でした。

AIを使った手法ではまず最初に既存の抗生物質とは異なる組成のものをピックアップした後、大腸菌に対する増殖阻害データなどを元にした絞り込みを行いました。そしてその絞り込みで最後まで残ったのがハリシンです。

大腸菌以外のさまざまな細菌に対しても強力な効果を発揮したハリシンは、実験室での試験で作用を詳しく調べられました。その結果、ハリシンは細菌にとってのエネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)の生成を阻害する働きがあることが確認されました。この作用によってハリシンに曝された細菌は死滅します。

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機械学習AIの新薬研究への応用

今回機械学習AIはドラッグリポジショニング・ハブに登録された数百万を超える化合物を効果的にふるい分け、新たな抗生物質を探す時間を大きく短縮しました。

研究者グループは、機械学習AIの能力を幅広く活用できるプラットフォームの開発を進めています。その一つが、バージニア工科大学の生命情報科学教授Liqing Zhangの研究グループが開発している細菌の薬剤耐性を予測するシステム「DeepARG」です。

DeepARGではまず最初にCARD(薬剤耐性包括データベース)、UniProt(汎用タンパク質データベース)、ARDB(抗生物質耐性遺伝子データベース)の3つのデータベースから取得したデータを元に、細菌の薬剤に対する耐性を30のカテゴリーに分けて予測した結果をまとめたデータベースDeepARG-DBを構築しました。

次にUniProtに登録された耐性遺伝子10,602個の70%を使用してAIに繰り返し学習させ、導き出された遺伝子配列データと他の2つのデータベースから取得した薬剤耐性を持つ遺伝子を比較しました。その結果、DeepARGの予測と一致した遺伝子データは数千に上りました。

 

ZhangグループによるDeepARGの開発

Liqing Zhangの研究グループは人間の脳の働き方からヒントを得たディープラーニング(深層学習)モデルを使いました。彼らは最良の結果を得るために、AIが結果を導き出す過程に様々なアイデアを投入しています。

まず入力データに対して重みづけをすることで、AIは類似した遺伝子に対しても抗生物質の耐性を正確に予測することができました。

加えて遺伝子配列の読み取りを短長2パターンで行うDeepARG-SSとDeepARG-LSの2つのモデルを構築して、異なるDNA配列でも効果的にテストを行なえるようにしています。

 

AIの作る未来

ブロード研究所が発表した新たな抗生物質の発見に機械学習AIを使用することの有用性をまとめた記事にもあるように、AI技術は従来の研究開発手法に革命をもたらす可能性があります。

これは薬剤耐性菌と戦うためだけにとどまらず、私たちの生活にも大きな影響を与える可能性を秘めています。

研究者たちは機械学習AIは人類に新しいものをもたらすこと、そして今はその始まりにあると語り、これまで以上に有効な活用法を模索しています。

AIは今後も細菌のデータが更新されるたびにアップデートされ、より効率的に新たな抗生物質を発見できるようになるでしょう。

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将来の影響

機械学習AIによる薬の開発は、医療の現場だけにとどまらない影響があります。

例えば紛争地の兵士は一般人よりも抗生物質を使う機会が多いため薬剤耐性菌が発生する可能性も高まると考えられており、兵士の死亡リスクの増加要因となっています。

アフガニスタンに駐留している米兵の間で大きな問題となっているのがすべての抗生物質に耐性のある多剤耐性アシネトバクターですが、この細菌に対してもハリシンは非常に高い効果があります。

まだハリシンは人体への投与は開始されていませんが、研究チームは近い将来ハリシンを感染した部位に直接投与できるようになることを期待しています。これにより、常在菌に影響を及ぼすことなく病原菌のみを排除できます。

このようなAIシステムにより多くの投資が行われれば、私たちの生命を脅かす細菌の特効薬が生まれる可能性も高まっていくでしょう。

 

結論

薬剤耐性菌対策の需要が急速に高まった結果、病理研究者はそれらの細菌やウイルスを特定するのにも機械学習AIを活用しています。

多くの人がAIを使って細菌が抗生物質に対して耐性を獲得するプロセスを解析し、新たな耐性菌の発生をいち早く捉えようとしています。

水をはじめとした細菌が生息している環境との関係性についての研究も進んでおり、様々な環境から採取した細菌を解析するメタゲノム解析への利用も期待されるなど、バイオ分野における機械学習AIの必要性は今後も高まっていくことでしょう。

 

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