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AIが広げる臨床試験の可能性

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AIが広げる臨床試験の可能性

医薬品の臨床試験は、薬が一般に公開するのに十分有用であり、安全性の有無を判断する上で不可欠です。そこに至るまでには長い時間を要し、多くの新薬は治験への参加が承認される機会さえありません。臨床試験におけるAIは、これまでの方式を変えつつあります。

 

臨床試験の問題点

臨床試験には大きく偏る傾向があります。これは主に、科学者が、白人男性の被験者に効くものは、性別や人種を問わず、皆に同様の効能があると思考したからです。つまり、薬の多くは、主に白人男性にテストされ、承認されているのです。アメリカ人の約40%がマイノリティであるにもかかわらず、臨床試験の参加者の90%は白人です。

近年の研究により、性別だけでなく、民族や人種が、薬や治療法の効き目に大きな影響を与えること解明されてきました。例を挙げると、特定の喘息治療薬は、白人には非常に効果的ですが、喘息が重症化しやすいアフリカ系アメリカ人が使用すると効果を得られません。また、抗血小板薬であるクロピドグレルは、多くの人に有効ですが、太平洋諸島の人々にはほとんど効果がありませんでした。このように、薬はさまざまな人を対象とした臨床試験を経て、すべての人に効果があることが明白になったのです。臨床試験では多様性が重要ですが、それが非常に不足しています。

臨床研究には多様性が求められるだけでなく、薬を必要とする可能性の高いグループに偏っていることも有益です。例えば、メキシコ系アメリカ人やプエルトリコ人は、糖尿病になるリスクが高い傾向があり、糖尿病の治療法の臨床試験の際、多数の人に参加を要請するのは理にかなっています。

試験の多様性を高めるというアイデアは以前からありましたが、実際にはあまり実施されていません。米国国立衛生研究所活性化法は、研究者に対し、試験や研究に参加する女性や有色人種の増員を要求しました。実際、臨床試験ではより多くの女性が起用されたものの、大半は白人女性で、多様な人種は含まれず、十分な効果があったとは言い難いものでした。

2014年の調査では、1万件のがん臨床試験のうち、ある種のがんは特定の人種に多く見られるにもかかわらず、民族に集中していたのはわずか2%でした。

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臨床試験はなぜ偏るのか

白人の臨床試験参加者が多い理由として、いくつかの要因が考えられます。マイノリティの多くは、仕事や育児など、治験に参加する時間や金銭的な余裕がないという説があります。

また、主な理由の一つとして、マイノリティはこれまで、臨床試験において劣悪な待遇を受けてきたことが挙げられます。例えば、1932年に行われたタスキギー梅毒研究では、研究者が病気の進行を調べるために、梅毒にかかったアフリカ系アメリカ人男性に対して、意図的に治療を施しませんでした。1972年まで続いたこの非倫理的な研究は、多くの有色人種が臨床試験に強い不信感を抱く結果となったのです。

これは、医療の世界で少数派が搾取されている最も有名な例に過ぎません。医療システムに対する明確な不信感があるのは当然のことです。多くのアフリカ系アメリカ人は、研究者が治験のリスクを十分に説明するとは思わず、被害が出る可能性があっても参加を勧めると考えています。マイノリティへの虐待の歴史的背景が強く残っていることが、これらの研究の問題点に大きく寄与しています。

検索パターンの拡大は解決策の一部ですが、信頼関係の構築と有色人種へのより良い医療の提供も必要です。マイノリティは歴史的に、出産などの非常に基本的な場面でも、質の低い医療を受けてきました。このことが不信感を醸成し、臨床試験への参加にも影響を与えています。

もうひとつの要因は、言葉の壁です。スペイン語を母国語とする人が、試験の内容を把握できなければ、参加の可能性はかなり低くなります。翻訳者の存在は、誰もが安心して試験に参加し、何を求められているのかを理解する上で大きな意味を持ちます。

 

 

 AIが物語を変える

AI が芽生えてしまった不信感を払拭することは不可能かもしれませんが、研究者の選択の幅を広げることは可能です。潜在的な参加者が多ければ多いほど、医療試験への参加を検討する人が出てくる可能性が高くなります。

臨床試験にAIを使うと、どのように多様性が高まるのでしょうか。スタンフォード大学とジェネンテック社は、ジェームズ・ズー氏を中心とした研究チームを結成し、臨床試験のプールを拡大するより良い方法を見い出せないか考えました。

チームは、人工知能を使って治験の参加資格ルールを決定することに着目しました。その結果、「Trial Pathfinder」というAIアルゴリズムが開発されたのです。Trial Pathfinderは、研究者が臨床試験の適切な適格性規則を設計するのを助け、電子カルテを介して患者を選別します。このプロセスは、潜在的な参加者のプールを拡大するように設計されており、成功を遂げました。トライアルパスファインダーは、臨床試験への参加人数を2倍に増やし、性別、人種、年齢などの多様性も生み出しました。

従来、これらの情報をすべて調べ、最適な候補者の選別処理には膨大な時間を費やしていましたが、AIの活用により、人間が情報を整理するよりもはるかに早く、対象者のリストを提供することが可能になりました。

AIは、治験の基準を作るための一定の基準を与えてくれるだけでなく、一貫性を持たせることにも有用です。以前は、各試験ごとに患者の参加可否の基準がありました。絶えず情報が入れ替わり、誰が対象となるか判断が困難でした。AIアルゴリズムは正確な境界線を設定し、各試験が類似したものとなるようにします。

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